『アエラ』(1998年09月07日号)

バイアグラに群がる中高年 不況の真夏の狂騒曲

 男たちはなぜバイアグラに走るのか。
 一瓶三十錠入りが七~十万円で飛ぶように売れる。
 そこには不景気とはまるで対照的な光景が見えるようだ……。
 (編集部・大島辰男、写真・外山俊樹)
  
 「バイアグラ ここで買えます」
 山手線の線路際に、デカデカと看板が掲げられている。
 東京・鶯谷の「安井堂インターナショナル」。客の出入りが激しくなる夕方。事務所の片隅で書類整理をするふりをしながら、記者は「にわか店員」になりすました。
 「バイアグラ、ありますか……」
 遠慮がちにドアを開けて入ってくる客の大半はネクタイ姿のサラリーマン。四十代から五十代とおぼしき男性が多い。
 看板の「買えます」の文句に、客たちがすぐにバイアグラを入手できると思っても無理はないが、ここではあくまで「個人輸入」の代行をしているだけ。売買しているわけではない。
 「そうか売っていないのか……」
 客たちのなかにはそういって残念がる人も少なくない。
 「そんなこと言っても、二、三粒ぐらい持ってるだろ。分けてよ」
 と食い下がった男性も一人だけいたがこれはレアケース。
  
 ○お得意さんに配るねん
 そもそも客たちの表情、反応は乏しい。まず笑うことはないし、無駄口をたたくこともない。店主の説明を聞き、うなずき、書類を記入してカネを払うだけだ。
 ただし店主が、
 「何のために入手するの? やっぱり奥さん?」
 と聞いたときだけは全員きっぱりと、こう語るのが不思議だった。
 「まさか、御冗談でしょう……」
 三十代後半から四十代と思われる男性は愛人と使うためだとほのめかし、こう購入動機を語った。「せいぜい、いまは一晩で二、三回かな。昔のように四回、五回できなくなったから……」
 ただ一人明るかったのは関西弁の営業マン。
 「儲かってるんやろ?」
 とさんざん軽口を叩いた後で、
 「領収証も頼むわ」
 「自分で使う? ちゃう、ちゃう。これは営業用。お得意さんに配るねん。『ありがとさん』って、ごっつう喜んでもらえるんや」
 ハハハ、と高らかに笑った。
 バイアグラは日本では未承認薬のため、いまのところ「個人輸入」の形で入手するしかない。もちろん、インターネットが使えれば海外の販売店、薬局からダイレクトに取り寄せることもできる。一番安上がりの方法だが、そのためには英語力もいるし、いろいろ面倒だという人も多い。
 そこでこうした輸入代行業者に頼む人が多い。バイアグラを扱っている輸入代行業者は現在、約二百社あるという。最近では競争も激しく、「郵送料、手数料込みで一瓶(三十錠)が七万円台から十万円」が相場だという。
 ところで、冒頭の安井堂インターナショナルの売り上げは好調だ。六月中旬からバイアグラの輸入代行を始めたが二カ月半ですでに注文は三千件を超えているという。
 店主の弓長五百人さんは、
 「売り上げは約一億八千万円、経費を引いてもざっと五千万円は儲けさせてもらった。男が勃起にこだわるのは女性がダイエットに励む心理と同じ。受けるとは思ってましたが、なんだか宝クジに当たったような気分ですね。それにしても、皆さん他にやることがあるんじゃないかと思いますがね」
  
 ○医師も輸入代行始める
 輸入代行業者の話をまとめると、購入者は四十代から七十代で、特に五十代前半から六十代ぐらいが多いという。
 ともすれば熱狂的なブームの煽りで「精力増強剤」のようなイメージで受け取られているバイアグラだが、もちろんれっきとした治療薬である。米国国内で入手するためには医師の診察を受け、処方箋を書いてもらわなければ購入できないが、輸出には関係ない。
 つまり、日本で個人輸入している人たちは医師の診察もなく、自己責任で服用している人がほとんどであるという。
 東京・錦糸町の「ライフクリニック」でも個人輸入の代行をしているが、ここでは同時にバイアグラを求める人たちの健康相談「メディカルアドバイス」を行っている。勝間田宏医師はこう語る。
 「勝手に飲むも飲まないも本人の自己責任の問題。すべての選択は個人にあるわけで、治療薬としてでなく『精力増強剤』的に服用してみたいという人がいてもいい。建前を言ったところで現実はそうですから」
 だが、こう指摘もする。
 「安全性の高い薬ですが薬は薬。副作用もあれば、使い方を誤るとトラブルも起こる。例えば心臓病の人には良くないといっても素人と専門家の認識は全然違う。本人に自覚がなくても実は心臓が悪いという人は結構いるんです」
 相談料も含めたバイアグラの料金は三十錠で九万円から十万円。これまでに千六百人が購入しているという。
 東京・東品川の輸入代行業者「ライフワン」は米国在住の日本人医師、石川行一氏と提携した。石川医師は日米両国の医師免許を持っている。その石川医師に問診票を送り、処方箋を書いてもらって現地で購入、郵送してもらうというシステムである。石川医師が来日して診察会を開いたりもしているが、この会社も盛況だ。
 ライフワンの社長で「ドクター石川日本連絡事務所」所長の吉田智宏さんは満足げに話す。
 「四月末からのスタートでお客さんはすでに二千人を突破している。やっぱりマスコミの力も大きいですね。マスコミにとりあげられる度にドッと問い合わせがくるといった感じです。一時は十台の電話機がパンク状態になりました」
 輸入代行業の関係者たちは口を揃えて「これほど反響があるとは思わなかった」と言うのであるが、一方では直接米国などにでかけて購入する人たちも増えている。
  
 ○診察ツアーも登場
 日本人観光客が多いハワイ、グアムなどでは、日本人相手のバイアグラ購入のための現地診察ツアーも登場しているという。
 海外のマスコミでも報道されて話題になったのが日本人の「バイアグラ購入ツアー」。主催しているのは東京・南青山の旅行代理店「フライト・モア」。ハワイ、グアム在住の医師と提携し、現地で診察、処方箋を書いてもらい、購入する。これまで三十人から四十人が参加している。時期や日程にもよるが三、四日間のツアーで料金は二十万円前後。
 須藤峰一社長はこういう。
 「うちの会社がスタートしたのが四月で、とにかく宣伝になればと思って始めました。反響は大きく問い合わせも一日三十件ぐらいあるが、最近ではバイアグラが国内でも出回っていますから、それほどでもない。まあ、他社がやろうとしても難しいでしょう。海外のマスコミでも報道されてしまい、ハワイあたりでは『金儲けに加担しているように思われるのは困る』と言う医者もいる。協力してくれる医者の確保も大変です」
 こうしたバイアグラブームに危険性はないのか。最近ではバイアグラに絡んだ事故、事件も発生している。
 医療関係者の間で危惧されているのは、誤ったバイアグラ服用による事故の多発である。
 七月には六十代の男性が知人からもらったバイアグラを服用後、死亡する事件が起きた。この男性はもともと心臓が悪く、血管拡張剤であるバイアグラは飲んではいけない健康状態だった。
 勃起不全治療のベテランでバイアグラについての相談も多く受けるという医師はこう警告する。
 「きちんとした知識もなく服用していれば間違いなく事故は増えるでしょう。先日もある男性が効いても効かなくても一回一錠だけにしろとアドバイスしたのに、『効かないから二錠飲んじゃった』なんて言っていた。精力増強剤として飲んでいる限りそういうノリの人は多数いるでしょう」
 受けを狙ったタレントがキャバクラでバイアグラ五錠を、ブランデーと一緒に一気飲みして倒れるなんて「事件」も起きている。
 大阪では、輸入代行業者を通じてバイアグラを購入し、販売していた会社役員が薬事法違反で逮捕される事件も起きている。こうした「闇ルートの売買」も公然と行われつつある。
  
 ○サラリーマンも売人に
 「バイアグラの話題が出ない日はありませんね」
 銀座のホステスが、こう打ち明ける。
 「お客さんが店のママに『バイアグラを持ってるんだけど売ってくれないか』と交渉してくるほどです。お客さんは一部上場企業の部長さん。一瓶なら十万円、一錠なら三千円。ホステスを通じて売ろうとする人もいます」
 流れ出たバイアグラがバーやクラブで秘かに売られているケースは少なくないと言う。
 公然と「バイアグラあります」と看板をかかげ、禁じられている店頭販売を堂々と行っている防犯グッズ店もあった。
 泌尿器科の医師のなかには、個人輸入したバイアグラを診療で使う医師もいた。
 法的には「個人で輸入したものについては譲渡したり売買するのは違法となるが、個人で使用する限りは問題ない」(厚生省医薬安全局監視指導課)。だが、厚生省はバイアグラの個人輸入について、税関検査で輸入者が女性の名前になっているケースや住所が会社になっているケース、何回も続けて輸入しているケースなどについて、厳しくチェックしている。
  
 ○日本男性の品性の問題
 こうした混乱の数々も、バイアグラが認可されれば収拾するのだろうか。米国ファイザー社の子会社、ファイザー製薬が厚生省に認可の申請をしたのは七月二十四日、新薬承認には一般的に二年ぐらいかかるというが、「社会的影響を考えると早く承認した方がいい」という声もある。
 ファイザー製薬広報部・廣田孝一課長はこういう。
 「バイアグラは勃起不全の患者さんたちにとって本当にいい薬だと思いますが、あくまで未承認の治療薬。精力剤として面白半分の服用は絶対にやめてもらいたい。FDA(米食品医薬品局)も『健康な人は絶対に服用しないこと』という見解を出しているし、事件、事故が続けばおのずと新薬承認にもいろいろな影響がでる。マスコミも含めて冷静に対応してもらいたい」
 勃起不全治療の専門家である、日本性機能学会の白井将文理事長はこう嘆いた。
 「勃起不全はまじめな病気で『おかしいな』と思ったらきちんと治療しなくてはいけない。日本人が大騒ぎするのは病気という意識が低いのも一因でしょうが、それにしてもあまりの騒ぎには呆れる。日本男性の品性が疑われますね」
 性生活はもっと多様で奥深いものだという。
 「手を握りあい、抱擁しあうだけで満足している八十歳、九十歳のご夫婦だってたくさんいる。それも立派な性生活。バイアグラブームを見ていると、日本の男性は勃起して挿入すれば男女の問題はすべて解決すると思っているんじゃないか。精神的に貧しすぎるね」
 女性は男性が思っているほど、挿入にはこだわっていない、ということも付け加えた。
  
 【写真説明】
 闇市場では「1粒3万円、5万円で売買されている」とも言われたバイアグラだが、最近は供給が増え、相場は下降気味だという
 東京・鶯谷の「安井堂インターナショナル」。弓長店主は「バイアグラはビジネスと割り切っている。将来は儲けたカネを社会に還元する」という
 「個人輸入」されたバイアグラ。輸入代行業者に頼むと1週間から10日間ぐらいかかる

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