2001年11月23日 週刊朝日
途中で萎えるのは危険信号!! ED、1100万人時代
全国に勃起障害(ED)を抱える男性は約1100万人いるといわれ、大学病院の中にはED外来が1カ月、2カ月待ちも出ているほど20代から年配者まで幅広くおり、高齢化に伴ってますます増加する気配だ。ひとごとのように考えているあなた、本当に大丈夫?
東京のJR三鷹駅から歩いて2分の繁華街にあるフミトクリニックは、性機能障害を訴える20代、30代の若い男性の来院が増えた。
「コンピューターを扱ったり、研究所で座りきりで仕事をしている高学歴の人が『勃起しない』といって相談に来ます。座ったままだと前立腺を圧迫し、肥大する。そのためペニスに血液がいきにくくなり、EDを引き起こすのです。こんな病気、ひと昔前なら50代、60代の人がなっていたのに」
と、院長の冨名腰文人氏は驚く。
○夫が「疲れた」とセックスを拒否
また、若い世代の増加とともに、
「夫が恥ずかしがって、来院できない」
と言って、30歳前後の妻が相談に来るケースも目立つという。
「性交しても勃起しなかったり、できても持続しなかったり。射精しないので、妊娠できない。これは夫婦にとって深刻な問題です。それとともに、『夫が疲れたと言ってはセックスをしてくれない』という相談も増えた。働き盛りの夫が仕事のストレスなどで勃起しなくなり、セックスを避けるようになる。奥さんは、『私を本当に愛してくれているのか』と不安に陥るのです」(冨名腰氏)
EDとは、勃起不能、勃起障害のことをいい、「性交時に十分な勃起が得られず、あるいは十分な勃起が維持できないため、満足な性交が行えない状態」と定義されている。
最近の若年世代に増えているのは、ストレスなどによる心因性ED。典型的なのは、結婚直後に陥る「新婚ED」だ。
32歳のときに友人の紹介で7歳年下の女性と結婚した会社員Aさん(35)。新婚初夜は勃起したものの、途中で萎えてインサートできずに終わった。それ以後、ずっと性交時に挿入できないままの状態が続き、妻は性生活に強い不満を持っていた。
ペニスや精巣などの機能に異常はなく、勃起も十分できるのに、いざセックスに及ぶと、どうしても勃起しなかったり、途中で萎えたりしてしまうのだ。
日本性機能学会理事長で博慈会記念総合病院(東京都足立区)の白井將文氏の元を訪れる新婚ED患者は後を絶たない。Aさんもその一人だが、新婚ED患者に共通する要因をこう分析する。
「見合い結婚が多く、童貞で性的経験が乏しい男性です。初夜は緊張してセックスがうまくいかず、以後その影響でまた失敗するのではないかと不安に陥り、失敗を繰り返すうちに妻と向き合うだけで勃起しなくなってしまう。まるでパブロフの犬のように、EDになってしまいます。結局、性交などのつながりがないと夫婦間がギクシャクして、離婚になる場合も少なくありません」
こうしたED患者は全国でどのくらいいるのか。
1998年に全国の30歳から79歳までの2千人を対象に「成人男性の健康と性に関する調査委員会」が実施した調査の最終報告が、来年にも文献としてまとめられる。
○だれでもかかる「性器の風邪」
その中で、完全EDと、「たまに勃起できる」という中等度以上のED患者が全国に推定で1100万人もいることがわかった。調査によれば、特に40歳以上から70歳までの男性の半分以上が何らかの原因でEDになっているとみられているのだ。
「性に関する調査委員会」の委員でもある白井氏はこう指摘する。
「ED患者が約1100万人もいるというのは、ストレスなどが加われば、ある日突然、だれでもEDになり得るということです。うつ病が『心の風邪』なら、EDは『性器の風邪』です。自然と治ることもあるが、夫婦の破局にもつながる深刻な病気でもある。気にかかることがあれば医師に相談したほうがいい」
しかも、そうした患者のわずか4・8%しか医療機関を訪れていないという。
『男たちのED事情』(晶文社)を10月に出版したばかりのノンフィクションライターの豊田正義さんは20人近いED患者に取材した。
取材しながら相手に医者に行くことを勧めても、納得しない人も少なくなかったという。その多くが、「恥ずかしい」「勇気がいる」「保険が利かないので治療代が高い」といったことが理由だ。
また別な要因として、加齢EDがある。
慶応大医学部の丸茂健・助教授らは、加齢などが男性機能に与える影響を23歳から79歳までの会社員など約2300人を対象に調査した。
その結果、「ここ4週間、勃起を維持する自信の程度は非常に低い/全くない」とする高度のEDと、「低い」とする中等度のEDを合わせると、30代で2%、40代で8%、50代で20%、60代で41%、70代で64%の割合だった。
年をとればとるほど、EDの割合が急速に増している。
加齢に伴い性機能の低下は避けられない。さらに、中高年になるに従い増加する高血圧症、糖尿病、心臓疾患、脳梗塞といった病気や喫煙や飲酒などの生活習慣によってEDが起きるケースも多い。
こうしたED患者へ、治療の第一選択として広く使われるようになったのがバイアグラだ。「ED治療の革命」(白井氏)とまで言われ、心因性ED患者の約8割、ED患者全体でも約7割に効果を発揮しているという。国内で発売2年半あまりで2千万錠が医療機関に納入されている。
先の「新婚ED」Aさんもバイアグラを服用した結果、性交時にインサートできるようになり、何回かの使用で自信をつけた。しだいにバイアグラを使わなくても勃起を維持できることが多くなっていったという。
慶応大学病院(東京都新宿区)の泌尿器科にもバイアグラ発売以後、来院する患者が倍増した。それも50代、60代といった中高年の患者の増加が著しいという。
丸茂氏はこう話す。
「バイアグラ発売前の外来には30代が多かったが、いまでは患者数のピークは60代に移りました。躊躇していた方々が内服薬というなじみやすさもあって、来られるようになったようです。80代の患者も、けっして珍しくありません。ただ、そういう人に共通するのは大病せず、最近まで性生活を送られていた方です」
ただ、バイアグラも万能ではない。狭心症などに使用するニトログリセリンといった硝酸剤などとの併用は厳禁だ。
「EDの治療法は、バイアグラだけでなく、勃起補助具を使用したり、陰茎に注射して薬剤を注入したり、手術でポリエチレンの支柱を陰茎に挿入したりと、さまざまな方法がある。いまやED患者は百パーセント近く治療できる時代になった」(丸茂氏)
では、EDの危険信号をどう読み取ればいいのか。
東邦大学医学部講師の永尾光一氏は言う。
「ほぼ毎回うまく性交を行える自信がない人。失敗する不安のある人はEDの治療が必要ですね。あるいは本人、パートナーが性生活に不満を持っているときもそうです」
ファイザー製薬では、過去6カ月間の状況で、
「常に勃起を達成し、維持させることに自信があるか」
「勃起した際は、常に挿入するのに十分な硬さになるか」
「性交あるいは性的行為が終わるまで、常に勃起を維持することができるか」
などといった簡易なEDチェック方法を公表している。つまり性交中に萎えたら危険信号だというわけだ。この質問でひとつでも「いいえ」があれば、医師と相談してみることを勧めている。
また、表は国際的にEDの診断に使われる問診票の抜粋で、「国際勃起機能スコア5」といわれるものだ。
医療機関で広く利用されているEDの診断表だ。
該当する欄の点数を加えて21点以下の場合は、EDが疑われる危険信号となる。
丸茂氏はEDの予防法をこうアドバイスする。
「普段から成人病を防ぐような生活習慣を心がけることです。食事に注意し、喫煙や大量の飲酒などは控えるべきでしょう。将来、性機能を保つために大事なことです」
○海外で研究進む女性バイアグラ
EDは男性だけでなく、パートナーの女性とともに向き合う病気でもある。そうした視点も予防には欠かせない。
「パートナーと日ごろからコミュニケーションをとることです。家庭の中であいさつしたり、おしゃれしたり。お互い気に入られるようにする。セックスも週1回でも月1回でもいいから定期的に行う。性交時に痛くないか、時間が長かったり、短かったりしないかなど話し合ってください。相手の性の嗜好を知ることも大切です」(永尾氏)
東邦大学大森病院リプロダクションセンターでは、バイアグラ治療が有効だった患者とそのパートナーに治療に関するアンケートを行い、40組の男女から回答を得た。
「治療法の満足度」では、満足している男性は100%で女性は70%。「性生活の満足度」では、満足している男性患者は100%。女性も67・5%にのぼった。
調査を担当した永尾氏は今後の課題をこう話す。
「パートナーの満足度も高い結果が出ました。バイアグラ治療が効果がある現状では、今後の治療課題は女性の性機能障害になる。特に閉経後ですね。不妊症も含め、海外ではバイアグラの女性への応用も研究されています」
確かに調査では、不満を持った女性も12・5%おり、その理由として「性に対する罪悪感。性交時の痛み。オーガズムがない。興奮しない」などを挙げている。
高齢者の中には、バイアグラなどでEDを治療しても、パートナーがもう性行為を必要としない場合も少なくない。ED克服は、あくまでパートナーとの共同作業と心得ることが大切なのではないか。
(本誌・河畠大四)
途中で萎えるのは危険信号!! ED、1100万人時代
全国に勃起障害(ED)を抱える男性は約1100万人いるといわれ、大学病院の中にはED外来が1カ月、2カ月待ちも出ているほど20代から年配者まで幅広くおり、高齢化に伴ってますます増加する気配だ。ひとごとのように考えているあなた、本当に大丈夫?
東京のJR三鷹駅から歩いて2分の繁華街にあるフミトクリニックは、性機能障害を訴える20代、30代の若い男性の来院が増えた。
「コンピューターを扱ったり、研究所で座りきりで仕事をしている高学歴の人が『勃起しない』といって相談に来ます。座ったままだと前立腺を圧迫し、肥大する。そのためペニスに血液がいきにくくなり、EDを引き起こすのです。こんな病気、ひと昔前なら50代、60代の人がなっていたのに」
と、院長の冨名腰文人氏は驚く。
○夫が「疲れた」とセックスを拒否
また、若い世代の増加とともに、
「夫が恥ずかしがって、来院できない」
と言って、30歳前後の妻が相談に来るケースも目立つという。
「性交しても勃起しなかったり、できても持続しなかったり。射精しないので、妊娠できない。これは夫婦にとって深刻な問題です。それとともに、『夫が疲れたと言ってはセックスをしてくれない』という相談も増えた。働き盛りの夫が仕事のストレスなどで勃起しなくなり、セックスを避けるようになる。奥さんは、『私を本当に愛してくれているのか』と不安に陥るのです」(冨名腰氏)
EDとは、勃起不能、勃起障害のことをいい、「性交時に十分な勃起が得られず、あるいは十分な勃起が維持できないため、満足な性交が行えない状態」と定義されている。
最近の若年世代に増えているのは、ストレスなどによる心因性ED。典型的なのは、結婚直後に陥る「新婚ED」だ。
32歳のときに友人の紹介で7歳年下の女性と結婚した会社員Aさん(35)。新婚初夜は勃起したものの、途中で萎えてインサートできずに終わった。それ以後、ずっと性交時に挿入できないままの状態が続き、妻は性生活に強い不満を持っていた。
ペニスや精巣などの機能に異常はなく、勃起も十分できるのに、いざセックスに及ぶと、どうしても勃起しなかったり、途中で萎えたりしてしまうのだ。
日本性機能学会理事長で博慈会記念総合病院(東京都足立区)の白井將文氏の元を訪れる新婚ED患者は後を絶たない。Aさんもその一人だが、新婚ED患者に共通する要因をこう分析する。
「見合い結婚が多く、童貞で性的経験が乏しい男性です。初夜は緊張してセックスがうまくいかず、以後その影響でまた失敗するのではないかと不安に陥り、失敗を繰り返すうちに妻と向き合うだけで勃起しなくなってしまう。まるでパブロフの犬のように、EDになってしまいます。結局、性交などのつながりがないと夫婦間がギクシャクして、離婚になる場合も少なくありません」
こうしたED患者は全国でどのくらいいるのか。
1998年に全国の30歳から79歳までの2千人を対象に「成人男性の健康と性に関する調査委員会」が実施した調査の最終報告が、来年にも文献としてまとめられる。
○だれでもかかる「性器の風邪」
その中で、完全EDと、「たまに勃起できる」という中等度以上のED患者が全国に推定で1100万人もいることがわかった。調査によれば、特に40歳以上から70歳までの男性の半分以上が何らかの原因でEDになっているとみられているのだ。
「性に関する調査委員会」の委員でもある白井氏はこう指摘する。
「ED患者が約1100万人もいるというのは、ストレスなどが加われば、ある日突然、だれでもEDになり得るということです。うつ病が『心の風邪』なら、EDは『性器の風邪』です。自然と治ることもあるが、夫婦の破局にもつながる深刻な病気でもある。気にかかることがあれば医師に相談したほうがいい」
しかも、そうした患者のわずか4・8%しか医療機関を訪れていないという。
『男たちのED事情』(晶文社)を10月に出版したばかりのノンフィクションライターの豊田正義さんは20人近いED患者に取材した。
取材しながら相手に医者に行くことを勧めても、納得しない人も少なくなかったという。その多くが、「恥ずかしい」「勇気がいる」「保険が利かないので治療代が高い」といったことが理由だ。
また別な要因として、加齢EDがある。
慶応大医学部の丸茂健・助教授らは、加齢などが男性機能に与える影響を23歳から79歳までの会社員など約2300人を対象に調査した。
その結果、「ここ4週間、勃起を維持する自信の程度は非常に低い/全くない」とする高度のEDと、「低い」とする中等度のEDを合わせると、30代で2%、40代で8%、50代で20%、60代で41%、70代で64%の割合だった。
年をとればとるほど、EDの割合が急速に増している。
加齢に伴い性機能の低下は避けられない。さらに、中高年になるに従い増加する高血圧症、糖尿病、心臓疾患、脳梗塞といった病気や喫煙や飲酒などの生活習慣によってEDが起きるケースも多い。
こうしたED患者へ、治療の第一選択として広く使われるようになったのがバイアグラだ。「ED治療の革命」(白井氏)とまで言われ、心因性ED患者の約8割、ED患者全体でも約7割に効果を発揮しているという。国内で発売2年半あまりで2千万錠が医療機関に納入されている。
先の「新婚ED」Aさんもバイアグラを服用した結果、性交時にインサートできるようになり、何回かの使用で自信をつけた。しだいにバイアグラを使わなくても勃起を維持できることが多くなっていったという。
慶応大学病院(東京都新宿区)の泌尿器科にもバイアグラ発売以後、来院する患者が倍増した。それも50代、60代といった中高年の患者の増加が著しいという。
丸茂氏はこう話す。
「バイアグラ発売前の外来には30代が多かったが、いまでは患者数のピークは60代に移りました。躊躇していた方々が内服薬というなじみやすさもあって、来られるようになったようです。80代の患者も、けっして珍しくありません。ただ、そういう人に共通するのは大病せず、最近まで性生活を送られていた方です」
ただ、バイアグラも万能ではない。狭心症などに使用するニトログリセリンといった硝酸剤などとの併用は厳禁だ。
「EDの治療法は、バイアグラだけでなく、勃起補助具を使用したり、陰茎に注射して薬剤を注入したり、手術でポリエチレンの支柱を陰茎に挿入したりと、さまざまな方法がある。いまやED患者は百パーセント近く治療できる時代になった」(丸茂氏)
では、EDの危険信号をどう読み取ればいいのか。
東邦大学医学部講師の永尾光一氏は言う。
「ほぼ毎回うまく性交を行える自信がない人。失敗する不安のある人はEDの治療が必要ですね。あるいは本人、パートナーが性生活に不満を持っているときもそうです」
ファイザー製薬では、過去6カ月間の状況で、
「常に勃起を達成し、維持させることに自信があるか」
「勃起した際は、常に挿入するのに十分な硬さになるか」
「性交あるいは性的行為が終わるまで、常に勃起を維持することができるか」
などといった簡易なEDチェック方法を公表している。つまり性交中に萎えたら危険信号だというわけだ。この質問でひとつでも「いいえ」があれば、医師と相談してみることを勧めている。
また、表は国際的にEDの診断に使われる問診票の抜粋で、「国際勃起機能スコア5」といわれるものだ。
医療機関で広く利用されているEDの診断表だ。
該当する欄の点数を加えて21点以下の場合は、EDが疑われる危険信号となる。
丸茂氏はEDの予防法をこうアドバイスする。
「普段から成人病を防ぐような生活習慣を心がけることです。食事に注意し、喫煙や大量の飲酒などは控えるべきでしょう。将来、性機能を保つために大事なことです」
○海外で研究進む女性バイアグラ
EDは男性だけでなく、パートナーの女性とともに向き合う病気でもある。そうした視点も予防には欠かせない。
「パートナーと日ごろからコミュニケーションをとることです。家庭の中であいさつしたり、おしゃれしたり。お互い気に入られるようにする。セックスも週1回でも月1回でもいいから定期的に行う。性交時に痛くないか、時間が長かったり、短かったりしないかなど話し合ってください。相手の性の嗜好を知ることも大切です」(永尾氏)
東邦大学大森病院リプロダクションセンターでは、バイアグラ治療が有効だった患者とそのパートナーに治療に関するアンケートを行い、40組の男女から回答を得た。
「治療法の満足度」では、満足している男性は100%で女性は70%。「性生活の満足度」では、満足している男性患者は100%。女性も67・5%にのぼった。
調査を担当した永尾氏は今後の課題をこう話す。
「パートナーの満足度も高い結果が出ました。バイアグラ治療が効果がある現状では、今後の治療課題は女性の性機能障害になる。特に閉経後ですね。不妊症も含め、海外ではバイアグラの女性への応用も研究されています」
確かに調査では、不満を持った女性も12・5%おり、その理由として「性に対する罪悪感。性交時の痛み。オーガズムがない。興奮しない」などを挙げている。
高齢者の中には、バイアグラなどでEDを治療しても、パートナーがもう性行為を必要としない場合も少なくない。ED克服は、あくまでパートナーとの共同作業と心得ることが大切なのではないか。
(本誌・河畠大四)