2010年09月24日 週刊朝日
男たちよ、立ち上がれ 「食の伝道師」小泉武夫が教える、起つ・勃つ「絶倫食」
男と女の性は人間にとって、永遠不変のテーマである。そして男たるもの、いくつになっても、あっちもこっちも元気でいたいもの。新著『絶倫食』(新潮社)を出版したばかりの東京農業大学名誉教授、小泉武夫さん(67)に、「七十にして立つ」ために効く「食」や心得を聞いた。
「絶倫食」というとみなさん、手に入りにくい、珍しい食べ物ばかりを想像するかもしれませんが、意外にそうでもないんですよ。たとえば身近なものだと、スルメ。これは相当効きますなあ。
おなかがすいているとき、スルメをさっとあぶってかじる。それも微酔しながら食べると、非常に催します。ビールならコップに1杯半ぐらい、焼酎なら水割り1杯とか、日本酒ならコップ半分とか、ほろ酔い加減でしゃぶるんです。若い人たちが、これをやりながら女性のヌード写真なんか見たら、立ちどころにそうなります。(笑い)
日本では、スルメは昔から結婚式の引き出物として、また結納品としても「寿留女」と書かれ、重宝されてきました。スルメはアルギニンというアミノ酸を多く含んでいます。アミノ酸は人間の精子の主要な成分のひとつですから、効果があるのには、れっきとした根拠があるんです。新郎はスルメを食べて精力を増強し、新婦は元気な卵子を放出して、めでたしめでたし、というわけです。
あっちを強くさせるにはどうするかといったら、血流を良くすることなんですね。血流を良くする食べ物といったら、ご存じニンニクです。
古代エジプトで、ピラミッドを造り上げた労働者たちがニンニクやタマネギを食べて作業していたことがよく知られているように、ニンニクはアリシンやスコルジニンといった強壮作用のある成分や、さまざまなビタミン類を多く含んでいます。
タケノコも強壮食品として、古くから珍重されてきました。なにせ、一晩で15センチも背を伸ばすんですから。しかも縦にニョキニョキだけでなく、横にもボワーッと広がっていく。こんな繁殖力と生命力がある生き物、ほかにないでしょう?
煮しめにしておくと、タケノコは白い粉を吹きますよね。あれはチロシンというアミノ酸です。新陳代謝を高めるアミノ酸が噴き出してくるぐらいあるということですから、これはすごい。文献によると、伸び盛りのタケノコの皮をはいで、生のまま切り干しにして、それを粉末にしてから煎じて飲むことが多かったようです。
朝鮮人参が代表的ですが、植物系だと、やっぱり根っこ系が効きます。土からムクムクと起き上がってくるものは強い。さらにいいのは、さきほどのスルメをニンニクと一緒にかじったり、同時に組み合わせて取ることですね。動物にない成分が植物に、また植物にない成分が動物にあったりしますので。朝鮮人参でもかじりながらスルメを食ったら、3日間ぐらいは歩くのにも困るんじゃないですか。(笑い)
性欲を連想させる食べ物というと、なんとなく肉のイメージがあるかもしれないですけど、必ずしもそうじゃありません。
ある報告によると、空腹のときに新鮮な野菜をたくさん食べたり、緑茶を飲んだりすると、男性も女性も催すことがあるそうです。これらの植物に含まれるさまざまな水溶性ビタミンが、欲望の引き金になる神経細胞を刺激して、大脳や神経系の活動を活発にさせるというのです。
最近、野菜のなかでひそかに注目されているのがキャベツです。それも少しばかり食べるのでなく、ある報告では、まるまる一個を千切りにしてドレッシングやマヨネーズをかけ、生でムシャムシャ食べると、効果がてきめんだというのです。欧米ではベジタリアンのほうが精力が強いという話がありますが、なんとなくわかる気がしますね。
私が実際に試してみて、鼻血が出るほど効いたのは、沖縄のヤギ汁です。
あれはすごいですぞ。
沖縄でヤギは、祝いの席で供されるほか、強壮薬効食としても知られ、産後の肥立ちが悪い女性や、体が弱っている人に食べさせています。
食べ方は、まずヤギ一頭を肉と内臓とに分けます。肉は主に刺し身にして、内臓もすべて食べます。血も取っておいて、一滴もムダにしません。刺し身以外の肉と内臓を、ぶつ切りにしてじっくりと煮込み、身が骨から外れるぐらいにまでなったら、取っておいた血を入れ、よもぎ草をたくさん入れたあと、さらに煮込んで仕上げます。
●体中熱くなって、鼻血がタラーッ
それを好みに応じ、塩やおろしショウガで味付けして食べる。このとき血を入れたヤギ汁は「ヒージャーヌチーイリチャー」、入れないほうは「ヒージャージル」と言います。臭みがとても強いので血を入れないこともあるのです。
さらに「ヒージャーヌチーイリチャー」には、ヤギの一物と睾丸を入れたものもあります。私は、この一物と睾丸入りのほうを、どんぶりで3杯ほど食べたことがあります。すると、3時間もするとカッカカッカ、体中が熱くなって、鼻血がタラーッ。もちろん、下のほうもズンズン、ムズムズです(笑い)。ヤギを食べると効きすぎてのぼせるからか、いまでも沖縄では血圧の高い人には食べさせるな、と言われます。
沖縄でもうひとつ挙げるなら「イラブー料理」ですね。イラブーとは、沖縄本島に近い久高島産のウミヘビを燻して乾燥させたもの。イラブー汁は、このイラブーを、豚足や昆布と一緒にカツオ節のだしでじっくりと煮込み、塩としょうゆで味付けしたものです。
イラブーと豚足からおびただしいほどのゼラチンとコラーゲンが流れ出るから、汁はとにかく濃厚で、トロトロ。ゼラチンとコラーゲンはとても強い精力剤で、人間の一物を持ち上げるジャッキの役目を果たします。
余談ですが、私は豚足が大好きで、(大学で客員教授をしている)鹿児島へ行くと、うまくて安いから食べるのは豚の足ばかり。おかげでトントントンのトロロロンってな具合に、私の肌、きれいでしょう? その人が健康かどうかは、ある程度、顔色と肌に表れます。肌ツヤのいい人は、あっちのほうも強い人が多いですよね。はははは。
食の冒険家として世界中を食べ歩いてきましたが、イラブー汁は、そのなかでも三本の指に入る美味スープです。イラブー汁を食べるなら、なんといっても中頭郡北中城村の「カナ」という店がおススメです。
日本で「馬力食」を食べさせる店を三つ挙げろと言われたら、まずはこの「カナ」。もうひとつは、東京・新宿でカエルなどゲテモノの類や、立ちどころに効くホルモンを食わせてくれる「朝起」。名前のとおり、ここで食事したら、明日の朝は起つぞという店です(笑い)。もう一店は、渋谷は道玄坂にある性交、じゃなかった「清香園」。以前、週刊朝日でも紹介しましたが、ここの「どじょう汁」はいい。ドジョウやウナギなど長くヌラヌラした魚はヘビ同様、精力があると長らく信じられています。
こんな話ばかりしていると、「なんて恥ずかしいことを」と思われる向きもあるかもしれません。しかし、むき出しの性といいますか、男と女の性の結びつきは人間の本能的な欲求です。
また食べることは人間の基本で、口から入れる食べ物が体を動かし、あちらも立ち上がらせる。そんなわけで、とりわけ男たちは皇帝から庶民まで、多くの知恵や発想を駆使して“妙薬”を探し続けてきました。
中国の明朝時代に編まれた、漢方薬を解説した『本草綱目』という本のなかに、「秋石」というすごい薬の話が出てきます。秋石とは、12歳以下の子どもの小便でつくった秘薬のこと。
だれの知恵かわかりませんが、満月の秋の夜、まだ女性の体を知らない子どもばかり千人を集めて、女体を見せながら放尿させる。その千人分の小便をつぼに集め、何カ月か放っておくと、つぼの底に白い沈殿物がたまる。それを集め、少しの石膏と漢方薬を加え、練って乾燥させる。この奇薬が、勃起力の弱まりや不能によく効いたそうで、古代の中国の王たちが好んで服用したというのです。
いまとなっては効果のほどはわかりませんが、子どもの小便には、強精強壮にかかわる性ホルモンが、確かに多く含まれている。とんでもない権力を持つ人間でさえ、子どもの小便を飲んでまでやりたいという、人間の性に対する飽くなき欲望には、すさまじいものがありました。
●バイアグラにはロマンがない
日本も負けていませんでした。江戸の好事家たちは、ハマグリや赤貝を天日にさらして乾燥させ、これを粉末にして「におい袋」に入れ、そのにおいをかぎながらことに及ぶ、なんてことをしていました。上手に干し上げると、なんとも官能的なにおいとなり、立ちどころに欲望を引き起こしたからです。
鼻をつまんでものを食べてもおいしく感じないように、性も五感が大事です。とりわけ、においが性的な欲望を発動させます。絶倫食を口にするときは、精神的に「効くぞ」と言い聞かせることも大切。こんなの食ったって効かねえや、なんて思いながら口にしたら、やっぱり効かない。セックスというのは、こころと体が連動して成り立つものですから。
バイアグラなどは、医学的な観点から体の反応を変えさせるわけで、確かに効くんでしょう。しかし、先人たちは「あれが効く」「これがいい」などと試行錯誤しながら、精力のつくものを求め続けてきた。その精神こそが男のロマンじゃないだろうか、と私は思うわけです。バイアグラにロマンはありません。
最近、私がすごく注目しているのは、クジラに含まれるバレニンというアミノ酸の成分です。一日に何百キロも移動しても疲れを知らないパワーの秘密を研究機関が調べた結果、バレニンに疲労回復効果があることがわかってきたのです。
どんな人にも効く「絶倫食」はいまだ発見されていませんが、夢のような幻の食を追い続けることが、若さを保つことにつながるんですね。
(構成 本誌・佐藤秀男)
*
こいずみ・たけお 1943年、福島県生まれ。東京農業大学名誉教授。専門は発酵学、食文化論。現在は鹿児島大学、琉球大学、広島大学の客員教授を務めるほか、文筆家としても活躍
■小泉武夫流「絶倫食」の心得
・その一、
併用がさらなる効果を生む。ニンニクや朝鮮人参とスルメなど、複数の強精食を同時に取り入れると、なおよい。
・その二、
五感、特に、においに敏感になるべし。
・その三、
半信半疑で試すことなかれ。「これは効く」と自分に言い聞かせながら取り入れるべし。
【写真説明】
右上から時計回りに朝鮮人参にニンニク、スルメ、タケノコ……
四捨五入すれば70代だが、全国各地の美味を追い求め、今も元気いっぱい
男たちよ、立ち上がれ 「食の伝道師」小泉武夫が教える、起つ・勃つ「絶倫食」
男と女の性は人間にとって、永遠不変のテーマである。そして男たるもの、いくつになっても、あっちもこっちも元気でいたいもの。新著『絶倫食』(新潮社)を出版したばかりの東京農業大学名誉教授、小泉武夫さん(67)に、「七十にして立つ」ために効く「食」や心得を聞いた。
「絶倫食」というとみなさん、手に入りにくい、珍しい食べ物ばかりを想像するかもしれませんが、意外にそうでもないんですよ。たとえば身近なものだと、スルメ。これは相当効きますなあ。
おなかがすいているとき、スルメをさっとあぶってかじる。それも微酔しながら食べると、非常に催します。ビールならコップに1杯半ぐらい、焼酎なら水割り1杯とか、日本酒ならコップ半分とか、ほろ酔い加減でしゃぶるんです。若い人たちが、これをやりながら女性のヌード写真なんか見たら、立ちどころにそうなります。(笑い)
日本では、スルメは昔から結婚式の引き出物として、また結納品としても「寿留女」と書かれ、重宝されてきました。スルメはアルギニンというアミノ酸を多く含んでいます。アミノ酸は人間の精子の主要な成分のひとつですから、効果があるのには、れっきとした根拠があるんです。新郎はスルメを食べて精力を増強し、新婦は元気な卵子を放出して、めでたしめでたし、というわけです。
あっちを強くさせるにはどうするかといったら、血流を良くすることなんですね。血流を良くする食べ物といったら、ご存じニンニクです。
古代エジプトで、ピラミッドを造り上げた労働者たちがニンニクやタマネギを食べて作業していたことがよく知られているように、ニンニクはアリシンやスコルジニンといった強壮作用のある成分や、さまざまなビタミン類を多く含んでいます。
タケノコも強壮食品として、古くから珍重されてきました。なにせ、一晩で15センチも背を伸ばすんですから。しかも縦にニョキニョキだけでなく、横にもボワーッと広がっていく。こんな繁殖力と生命力がある生き物、ほかにないでしょう?
煮しめにしておくと、タケノコは白い粉を吹きますよね。あれはチロシンというアミノ酸です。新陳代謝を高めるアミノ酸が噴き出してくるぐらいあるということですから、これはすごい。文献によると、伸び盛りのタケノコの皮をはいで、生のまま切り干しにして、それを粉末にしてから煎じて飲むことが多かったようです。
朝鮮人参が代表的ですが、植物系だと、やっぱり根っこ系が効きます。土からムクムクと起き上がってくるものは強い。さらにいいのは、さきほどのスルメをニンニクと一緒にかじったり、同時に組み合わせて取ることですね。動物にない成分が植物に、また植物にない成分が動物にあったりしますので。朝鮮人参でもかじりながらスルメを食ったら、3日間ぐらいは歩くのにも困るんじゃないですか。(笑い)
性欲を連想させる食べ物というと、なんとなく肉のイメージがあるかもしれないですけど、必ずしもそうじゃありません。
ある報告によると、空腹のときに新鮮な野菜をたくさん食べたり、緑茶を飲んだりすると、男性も女性も催すことがあるそうです。これらの植物に含まれるさまざまな水溶性ビタミンが、欲望の引き金になる神経細胞を刺激して、大脳や神経系の活動を活発にさせるというのです。
最近、野菜のなかでひそかに注目されているのがキャベツです。それも少しばかり食べるのでなく、ある報告では、まるまる一個を千切りにしてドレッシングやマヨネーズをかけ、生でムシャムシャ食べると、効果がてきめんだというのです。欧米ではベジタリアンのほうが精力が強いという話がありますが、なんとなくわかる気がしますね。
私が実際に試してみて、鼻血が出るほど効いたのは、沖縄のヤギ汁です。
あれはすごいですぞ。
沖縄でヤギは、祝いの席で供されるほか、強壮薬効食としても知られ、産後の肥立ちが悪い女性や、体が弱っている人に食べさせています。
食べ方は、まずヤギ一頭を肉と内臓とに分けます。肉は主に刺し身にして、内臓もすべて食べます。血も取っておいて、一滴もムダにしません。刺し身以外の肉と内臓を、ぶつ切りにしてじっくりと煮込み、身が骨から外れるぐらいにまでなったら、取っておいた血を入れ、よもぎ草をたくさん入れたあと、さらに煮込んで仕上げます。
●体中熱くなって、鼻血がタラーッ
それを好みに応じ、塩やおろしショウガで味付けして食べる。このとき血を入れたヤギ汁は「ヒージャーヌチーイリチャー」、入れないほうは「ヒージャージル」と言います。臭みがとても強いので血を入れないこともあるのです。
さらに「ヒージャーヌチーイリチャー」には、ヤギの一物と睾丸を入れたものもあります。私は、この一物と睾丸入りのほうを、どんぶりで3杯ほど食べたことがあります。すると、3時間もするとカッカカッカ、体中が熱くなって、鼻血がタラーッ。もちろん、下のほうもズンズン、ムズムズです(笑い)。ヤギを食べると効きすぎてのぼせるからか、いまでも沖縄では血圧の高い人には食べさせるな、と言われます。
沖縄でもうひとつ挙げるなら「イラブー料理」ですね。イラブーとは、沖縄本島に近い久高島産のウミヘビを燻して乾燥させたもの。イラブー汁は、このイラブーを、豚足や昆布と一緒にカツオ節のだしでじっくりと煮込み、塩としょうゆで味付けしたものです。
イラブーと豚足からおびただしいほどのゼラチンとコラーゲンが流れ出るから、汁はとにかく濃厚で、トロトロ。ゼラチンとコラーゲンはとても強い精力剤で、人間の一物を持ち上げるジャッキの役目を果たします。
余談ですが、私は豚足が大好きで、(大学で客員教授をしている)鹿児島へ行くと、うまくて安いから食べるのは豚の足ばかり。おかげでトントントンのトロロロンってな具合に、私の肌、きれいでしょう? その人が健康かどうかは、ある程度、顔色と肌に表れます。肌ツヤのいい人は、あっちのほうも強い人が多いですよね。はははは。
食の冒険家として世界中を食べ歩いてきましたが、イラブー汁は、そのなかでも三本の指に入る美味スープです。イラブー汁を食べるなら、なんといっても中頭郡北中城村の「カナ」という店がおススメです。
日本で「馬力食」を食べさせる店を三つ挙げろと言われたら、まずはこの「カナ」。もうひとつは、東京・新宿でカエルなどゲテモノの類や、立ちどころに効くホルモンを食わせてくれる「朝起」。名前のとおり、ここで食事したら、明日の朝は起つぞという店です(笑い)。もう一店は、渋谷は道玄坂にある性交、じゃなかった「清香園」。以前、週刊朝日でも紹介しましたが、ここの「どじょう汁」はいい。ドジョウやウナギなど長くヌラヌラした魚はヘビ同様、精力があると長らく信じられています。
こんな話ばかりしていると、「なんて恥ずかしいことを」と思われる向きもあるかもしれません。しかし、むき出しの性といいますか、男と女の性の結びつきは人間の本能的な欲求です。
また食べることは人間の基本で、口から入れる食べ物が体を動かし、あちらも立ち上がらせる。そんなわけで、とりわけ男たちは皇帝から庶民まで、多くの知恵や発想を駆使して“妙薬”を探し続けてきました。
中国の明朝時代に編まれた、漢方薬を解説した『本草綱目』という本のなかに、「秋石」というすごい薬の話が出てきます。秋石とは、12歳以下の子どもの小便でつくった秘薬のこと。
だれの知恵かわかりませんが、満月の秋の夜、まだ女性の体を知らない子どもばかり千人を集めて、女体を見せながら放尿させる。その千人分の小便をつぼに集め、何カ月か放っておくと、つぼの底に白い沈殿物がたまる。それを集め、少しの石膏と漢方薬を加え、練って乾燥させる。この奇薬が、勃起力の弱まりや不能によく効いたそうで、古代の中国の王たちが好んで服用したというのです。
いまとなっては効果のほどはわかりませんが、子どもの小便には、強精強壮にかかわる性ホルモンが、確かに多く含まれている。とんでもない権力を持つ人間でさえ、子どもの小便を飲んでまでやりたいという、人間の性に対する飽くなき欲望には、すさまじいものがありました。
●バイアグラにはロマンがない
日本も負けていませんでした。江戸の好事家たちは、ハマグリや赤貝を天日にさらして乾燥させ、これを粉末にして「におい袋」に入れ、そのにおいをかぎながらことに及ぶ、なんてことをしていました。上手に干し上げると、なんとも官能的なにおいとなり、立ちどころに欲望を引き起こしたからです。
鼻をつまんでものを食べてもおいしく感じないように、性も五感が大事です。とりわけ、においが性的な欲望を発動させます。絶倫食を口にするときは、精神的に「効くぞ」と言い聞かせることも大切。こんなの食ったって効かねえや、なんて思いながら口にしたら、やっぱり効かない。セックスというのは、こころと体が連動して成り立つものですから。
バイアグラなどは、医学的な観点から体の反応を変えさせるわけで、確かに効くんでしょう。しかし、先人たちは「あれが効く」「これがいい」などと試行錯誤しながら、精力のつくものを求め続けてきた。その精神こそが男のロマンじゃないだろうか、と私は思うわけです。バイアグラにロマンはありません。
最近、私がすごく注目しているのは、クジラに含まれるバレニンというアミノ酸の成分です。一日に何百キロも移動しても疲れを知らないパワーの秘密を研究機関が調べた結果、バレニンに疲労回復効果があることがわかってきたのです。
どんな人にも効く「絶倫食」はいまだ発見されていませんが、夢のような幻の食を追い続けることが、若さを保つことにつながるんですね。
(構成 本誌・佐藤秀男)
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こいずみ・たけお 1943年、福島県生まれ。東京農業大学名誉教授。専門は発酵学、食文化論。現在は鹿児島大学、琉球大学、広島大学の客員教授を務めるほか、文筆家としても活躍
■小泉武夫流「絶倫食」の心得
・その一、
併用がさらなる効果を生む。ニンニクや朝鮮人参とスルメなど、複数の強精食を同時に取り入れると、なおよい。
・その二、
五感、特に、においに敏感になるべし。
・その三、
半信半疑で試すことなかれ。「これは効く」と自分に言い聞かせながら取り入れるべし。
【写真説明】
右上から時計回りに朝鮮人参にニンニク、スルメ、タケノコ……
四捨五入すれば70代だが、全国各地の美味を追い求め、今も元気いっぱい